理系大学生のための良い実験レポートを書く指針
日々実験とレポートに追われている理系大学生のぱんたろにが良いレポートを書くために気を付けていることをまとめました。
いったい何をどう書けば良いレポートが書けるのか、という指針を示したいと思います。
良いレポートとは?
良いレポートは何が"良い"のでしょうか?
それはずばり、「内容」と「書き方」です。
何を当然のことを言っているのだ、と思われるかもしれませんが、この2つに分けてそれぞれを良くしていく方法を考える必要があります。
内容について
まずは内容をよくするにはどうすればいいのか。大きく2つの要素に分けられます。
- 早くに取りかかり、遅くに終わらせる
- 正しい結果を得ようとしない
無意識を利用する!? 「早くに取りかかり、遅くに終わらせる」
レポートの提出期限の前日に取りかかり、徹夜で終わらせたのでは良いレポートは書けないことはわかっていただけると思います。
しかし、早くに取りかかり、早くに終わらせるのではなく、早く取りかかって、なおかつ遅くに終わらせることがポイントです。
人間は、考えていないつもりでも何か取りかかり始めたことについては無意識化でもずっと考えてしまいます。
これは「ツァイガルニク効果*1」でも説明できます。ツァイガルニク効果とは未達成のこと、中断されていることについて既にやり遂げたことよりも覚えている、思い出しやすい、という効果のことです。
また、新事業のアイデアを考えてもらう課題を被験者に行わせた実験があります。その際にマインスイーパーをして適度に課題を先延ばししてもらった被験者の方が、すぐさま課題に取りかかってもらった被験者グループよりもアイデアのクリエイティビティが16%も高く評価されました。
この時、重要なのはクリエイティビティが向上したのは、課題を知らされてからマインスイーパーをさせられたグループで、マインスイーパーをしてから課題を教えられて考えだしてもよい影響は現れませんでした。先に課題を知り、それをわざわざ先延ばしにすることで創造性が発揮された、ということです。
これについてはアダム・グラント: 独創的な人の驚くべき習慣 | TED Talkで述べられています。
すなわち、適切な先延ばしは考える時間をとる、と言い換えることができるということです。*2
それゆえ、オススメの方法は、実験を終えてすぐにレポートの設計図を書いてしまうことです。
設計図、といっても図ではなく、レポートの目次、アウトラインを書くようなイメージです。例としては以下のようなものです。
1.実験の目的
2.実験方法
2.1○○の実験方法
図2.1 実験装置の図
2.2××の実験方法
3.実験結果
3.1○○の実験結果
図3.1~3.3 オシロスコープで取得した図
3.2××の実験結果
図3.4 △△の図
表3.1 デジタルマルチメータで測った値
4.考察4.1○○の実験で~~の結果が出た理由
このとき装置がうまく動作せず、交換した
4.2××の実験で~~となった理由
AがBだからCという結果が出たと書く予定
5.参考文献
実験レポートでは書き方、章立て、添付すべきデータに指定がある場合も多いですし、答えるべき設問が用意される場合もあります。何をどう書くべきか、全体を見通しながら、添付すべきデータをすべて先に「図2.1 実験装置の図」のように言葉だけで書いておけば書き落とす危険性が減ります。
また、答えるべき設問が用意されていれば、その設問をきちんと理解することで無意識に考えておくこともできますし、探すべき文献の見当をつけることもできます。
実際にレポートを書くときにはこの設計図を見ながら書くことになります。
「このとき装置がうまく動作せず、交換した」といったことも実験を終えて記憶が新しいうちにここに書いておくことで、レポートを書く際に自分に大きなヒントを残しておくことができます。
この後どうすべきかは、特に述べる必要はないでしょう。設計図を書いて、後はやりたいことをやって先延ばししておけばいいのです。
ただ、設計図を書いて準備までして、デッドラインに間に合わないことのないようにご注意ください。
失敗は宝!正しい結果を得ようとしない
授業の一環で行われる実験では、調べれば簡単に正しい実験結果がわかります。
しかし、実験機器の精度であったり、実験に不慣れで手際が悪かったり、はたまた温度や湿度といった環境のせいで、実際に実験を行うとなかなか正しい結果は得られないものです。
その際に、知識として持っている正しい結果にどうしても近づけたくなってしまう気持ちもわかります。「正しい手法で正しく実験を行ったら、正しい結果が得られました。」というのは最もレポートが書きやすい形です。
ですが、レポートを出題する側はそういった正しさを一切求めていません。
出題者側の視点で見れば、大学の規模によっては何百人と同じ実験を行い、同じレポートを書いて提出するわけで、すべてが「正しい結果」なわけがないとわかっています。よって面白い、評価されるレポートというのは正しい結果が得られたものではなく、正しくない結果が得られたのはなぜかを考察したものです。
これは実際に研究生活がはじまれば、誰も正しい結果など知っている人がいないことを研究しなければならないため、その準備として行わせている実験とそのレポートでも「考える」ことを重要視しているからです。
例えば、私の経験では完全に方法を間違えて実験してしまったことに、実験終了後に気づいてそのままレポートを書かなければならない事態に陥ったことがあります。それでも、「このように間違えて実験を行ったためにこの結果になった。正しく実験したら、こんな結果が得られるだろう。」といったようにレポートを書き、そのレポートの最高点を獲得することができました。結果ではなく考えることが重要視されていることがわかる一例だと思います。
書き方について
次に書き方を良くするためには以下の点に気を付ける必要があります。
- 相手が何を知っているのかを明らかにする
- 図表を多くし、一文を短くする
- 意味が明らかでない文は書かない
相手が何を知っているのかを明らかにするのは非常に大切なことです。
何か変数を置いて考える時にはその変数が何を意味するかをきちんと明記しておく必要がありますし、一方で、レポートの中で電流とは何かを教授相手にくどくど説明したりする必要はありません。
また、文章で長々と書くよりも図表を用いたら一発で意味が伝わる場合があります。そういうときは積極的に図表を用いるべきです。
文章で書く場合にも意味がより伝わりやすいように、意味が二転三転するような文章は避けるべきです。そのためには一文の長さをできるだけ短くして、簡潔に書く必要があります。
同様に簡潔に書くためには、その文を書く意味を自分に問いかけてみるべきです。
実験から得られた事実を述べるのか、結果から考察した自分の考えを述べるのか、といったことがあいまいになってしまっている場合があります。
その文は何を伝えるために書かれているのか、即答できないようであれば書く必要はないでしょう。
レポートの枚数が多いほうが高評価につながるように感じられますが、それは意味のある文章をたくさん書いた場合であると認識する必要があります。ただ枚数を稼ぐためにだらだらと書いてしまうと、一度に多くのレポートを読む必要がある採点者の心証はあまりよくないでしょう。
その文章の着地点はっきりさせておくために、レポートの設計図に「AがBだからCという結果が出たと書く予定」といったようにその章では何を述べるつもりなのかを書いておくと、実際にレポートを書くのが大変楽になります。
まとめ
まとめると、よいレポートを書くためには内容と書き方を良くする必要があります。内容は、早くに取りかかり遅くに終わらせることで無意識を活用し、正しくない結果からでも考察を深めていくことでよくできます。書き方は、図表を多用しながら、相手にわかりやすく短く簡潔な文を連ねることでよくできます。
また、大学生にとって情報は大変重要です。先に同じ実験を終え、レポートを書いた友人がいれば積極的に質問し、アドバイスを求めることでレポートのクオリティを非常に短時間で上げることができます。
具体的には、設問があればその設問へのヒントや使った参考文献などを聞いてみることをおすすめします。
よりレポートの書き方を体系立てて学びたい方は「理科系の作文技術」を一読することを勧めます。
この記事の内容は大きくこの本の影響を受けていると思います。
長くなりましたが最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
*1:カフェの店員が客の注文をメモも取らずに正確に記憶し、商品を提供し終えると、その注文の内容を一瞬で忘れてしまうことを心理学者のツァイガルニクが発見したことからこのように呼ばれます。
*2:先延ばしについてもっと知りたい方はティム・アーバン: 先延ばし魔の頭の中はどうなっているか | TED Talkもご覧になることをお勧めします